銀河形態分類のハッブルの図の左側,楕円銀河や S0 銀河は早期型銀河と呼ばれている.これらはガスのなくなった銀河だと考えられてきた.今はのっぺらぼうの写真が撮れるだけで,その点で均質な集合を作っている銀河であるという印象が永らく続いていた.しかし近年は,もっと多様なものであるという見方が出てきている.早期型銀河中心部にもガスの系がよく見られるということが確立されつつあるのである.銀河合体などで外部から得たであろうものも含め,ガス系が実際高い頻度で見えるのである.我々の研究グループは,ハッブル宇宙望遠鏡(HST)のアーカイブ・データを用いて,この新しい見解の確立に貢献した1).以下にその概略を紹介しよう.
早期型銀河がガスなしののっぺらぼうばかりでないことは,以前から知られていた(極端な例はケンタウルス座 Aで知られるNGC 5128).銀河の等輝度線が銀河中心部で歪んでいる例があること,力学的に運動状態の違う,輝線で見える系が内包されている例があることからも,外部から降ってきて銀河中心部に降着しているガス系があることは示唆されていた.しかし何と言っても人々に強い印象を与えたのは,ジャッフェらによるNGC 4261 の写真である2).これはHSTのWFPCという光学カメラによる,楕円銀河中心部の写真である.銀河中心部の降着ガス円盤が見事に写し出され,正に絵に描いたような美しい写真である.ガス系の中のダスト(固体微粒子; 塵)が背景となる星の光を吸収し,「黒い影」を作っているのである(船型でないので,黒船とは言い難いが).この銀河は中心核活動とそれに伴うジェットが知られており,その電波ジェットの絵を重ねると,見事にこの円盤の垂直双方向になる.
中心部ガス系がこのように分かりやすく写し出されてきたのは,HSTの高解像度の威力による所が大きい.この円盤直径260 pcは,1.6 arcsecの角度に写っている.1 arcsec程度のサイズのものでも十分内部構造が分解できる所がHSTの特長である.ここでは1 arcsecが22ピクセルに対応している.
早期型銀河には高い頻度で中心部ガス系が見つかるのではないだろうか.それは実際どのくらいの頻度なのだろうか.それらガス系の大きさや形態はどうなっているのだろうか.そして銀河中心核活動との関連はあるのだろうか.一つの例ではなく,数多くのサンプルを対象に統計的に研究することが必要である.データベース天文学の出番である.HSTは幸いデータ・アーカイブがよく整っている.
バン・ドックムとフランクス3)はこの点に注目し,HSTアーカイブ・データの中からWFPCカメラで得られた早期型銀河のF555Wバンド(V バンドに相当)画像を集めた.その結果,NGC 4261での場合に似たガス系が多く見つかり,集めたサンプルの48%でガス系が認められることを示した.我々はこの研究を受け,以下の観点に重点を置いて追究することを目的とした.
(A) バン・ドックムとフランクスの研究は,HSTの光学収差補正前のWFPCカメラによるデータに基づいていた.中心部1 arcsecという細かい構造も議論することから,収差補正後のWFPC2 カメラのデータを用いて改めて検討する必要がある.
(B) バン・ドックムとフランクスの研究に限らず,ガス系はその中のダストによる,背景光の減光を手がかりに検出している例が多い.なめらかなモデル光度曲面をフィットして減光領域を割り出すのだが,銀河中心部は動径方向の光度曲線の傾きが非常に急で,この作業は容易ではない.一方,ダストがあれば減光に伴って赤化(色超過)も起こる.したがって赤化量からダスト,そしてガスの存在と量を算出することもできる.光度と違い,色の場合は動径方向の勾配は緩やかであるため,フィットの残差をより正確に割り出すことができる.
(C) 活動銀河中心核(AGN)との関連を詳しく議論する.
HST WFPC2のアーカイブ・データにはすでに 2 万の銀河画像がアーカイブされていた.まず以下の条件で 873のフレームを取り寄せることにした.較正用のデータも含めると取り寄せたデータ・サイズは22.6 GBになった.
(a) NEDでE(楕円)かS0と形態分類された,NGC/ICカタログ記載の銀河.
(b) 中心部100 pcを十分分解するため(0.5 arcsec 以上で写す),後退速度が3000 km s-1より小さいこと(ハッブル定数を 75 km s-1 Mpc-1とすると,40 Mpc相当).
(c) サンプル内での比較の都合上,局部銀河群銀河は距離が近過ぎるので除く.
(d) 色超過を見るため,2 つのバンドで写っていることが必要.最も多い組み合わせがF555Wバンド(Vバンド相当)とF814Wバンド(Iバンド相当)であったので,この 2 バンドで銀河中心部が写っているものに限った.
銀河中心部がWFPC2のPCチップに写っている条件などから,最終的に25銀河をサンプルに選び抜いた.
画像の処理はIRAFおよびSTSDASを用いて行なった.まず銀河中心部でのV-I色マップを作成した.この画像からガス系による「赤化の影」を注意して取り上げ,それ以外の領域で曲面をフィットして色超過マップを作成した.色超過マップで赤化の影をもう一度確認し,フィット前には見落としていたパターンが見つかればまたフィットをやり直すなど,慎重にフィットを行なった.典型的な色超過はδE(V-I) = 0.1 mag程度であった.0.03 mag以上の色超過領域でガス系のサイズと形態を求めた.銀河系での吸収曲線とガス-ダスト比100を仮定して,赤化量のE(V-I) からE(B-V) への変換,そしてガスの柱密度の見積もりを行なった.最後に赤化している全領域にわたって柱密度を積分することで,ガス質量を求めた.
サンプルの25銀河のうち14銀河,つまり56% でガス系を認めることができ,バン・ドックムとフランクスの結論を確認することができた.バン・ドックムとフランクスのサンプルと重なっている銀河が18あった.バン・ドックムとフランクスが検出したガス系は全て我々の方でも検出でき,さらに我々は 2 銀河で新しくガス系を検出した.光学収差補正後のデータを用いたこと,減光でなく赤化でガス系を検出したことで,検出効率が上がったと考えている.約50%というガス系検出頻度はかなり高いという印象であり,観測バイアスがかかっていないかより慎重に考える必要がある.ガス系の検出頻度は銀河までの距離による違いがなかったので,この点でのバイアスはない.集めたデータの銀河は完全サンプルを作るものではない.アーカイブ・データから得た結論はその点を注意する必要がある.力学的に多重のものとして知られているものが多く含まれていたが,そうであるものとそうでないものどちらでもガス系検出頻度に大差はなかった.なお,早期型銀河の約半数でガス系が見られることは,我々の研究の後にレストらによって補強されている4).
検出されたガス系は,形態から円盤型と不規則型に大別できた.円盤型は100 pcスケールの小型のものと2 kpc程度の大型のものにはっきりと分かれるようである.大きさや質量も含め,ガス系の分類を表1にまとめた.色超過で見たガス系の写真例を図1に示した.古典であるNGC 4261は我々のサンプルに入らなかったが,これは小型の円盤型の部類に属することになる.
ホーらは光学的に活動銀河中心核(AGN)の探査及び分類を進めた5).我々はこのうち,セイファート,ライナー,ライナーとHII核の中間と分類されたものをAGNありのグループ,その他をAGN なしのグループと大別した.我々のサンプル銀河 25のうち20銀河でホーらの探査があった.そしてこの20銀河では,ガス系とAGN存在に強い相関が見つかった(表2参照).ガス系の見つからなかったものにはAGNがなく,AGNを持つものは必ずHST WFPC2に写るガス系があるのである.AGNはpcのスケールより細かい領域での,超巨大ブラックホールへの質量降着が原因と言われている.HSTをもってしても超巨大ブラックホール直近の流入ガスは見えていない(本殿にはまだまだ遠い).HSTで見えているのは100 pc以上のスケールのガス系であり,この強い相関は驚きであった.なお,ガス系の質量とAGNの有無には相関がなかった.並行して注目すべきことは,力学的に落ち着いたものと見られる円盤型のものでなく,不規則型の形態のものにAGN活動がよく見られるということである.不規則型形態のガス系では,銀河中心へのガス落下(直接には見えていない)が効果的に起こっていることを示唆している.
またサンプル25銀河のうち6銀河では4.85 MHz の電波連続波で受かっている.これらは全てガス系ありの銀河である.またうち5つは不規則型のものである.この電波連続波がAGN活動に関係していると考えると,上記結果と合致する.なお,古典のNGC 4261の場合は円盤型のガス系であった.AGN活動との関連から考えると,これはよくある例ではなかったものであると言える.
・早期型銀河中心部には,約50%の確率でHST WFPC2に写るガス系がある.
・サイズは100 pcから1 kpcスケール,質量は太陽質量の104から107倍.形態は円盤型のものと不規則型のものに大別できる.
・このガス系が見えないと,AGN活動は出ていない.
・ガス系の形態が円盤型でなく不規則型なら,50 % 以上の確率でAGN活動が出ている.質量には依らない.
この研究は青木賢太郎(国立天文台ハワイ観測所),渡邊 大(宇宙開発事業団),高田唯史(国立天文台ハワイ観測所),市川伸一(国立天文台天文学データ解析計算センター)の各氏との共同で行ないました(所属は現在のもの).データ解析には天文学データ解析計算センターの共同利用計算機を利用しました.計算センターの皆様に感謝致します.
表1 早期型銀河のガス系の分類
形態 例 大きさ 質量[log M(solar)]
円盤型 (小型) NGC 1439 100 pc スケール 4 - 6
円盤型 (大型) NGC 4476 2 kpc 程度 7
不規則型 NGC 5813 100 pc - 1 kpc スケール 4 - 7
図1 我々の画像解析によるガス系の例.NGC 1439は小型の円盤型,NGC 4476は大型の円盤型,NGC 5813は不規則型の例である.V-Iカラーでの色超過を示しており,白が色超過なし,黒が色超過0.2 magに相当させてある.図中の下の線分の長さは5 arcsecの角度を示している.
ガス系 AGNあり AGNなし
なし 0 9
あり 5 6
円盤型 (小型) 1 3
円盤型 (大型) 0 1
不規則型 4 2
参考文献
1)Tomita A., Aoki K., Watanabe M., Takata T., Ichikawa S., 2000, AJ 120, 123
2)Jaffe W., Ford H.C., Ferrarese L., van den Bosch F., O'Connell R.W., 1993, Nature, 364, 213
3)van Dokkum P.G., Franx M., 1995, AJ 110, 2027
4)Rest A., van den Bosch F.C., Jaffe W., Tran H., Tsvetanov Z., Ford H.C., Davies J., Schafer J., 2001, AJ 121, 2431
5)Ho L.C., Filippenko A.V., Sargent W.L.W., 1997, ApJS 112, 315
Central Gas Systems in Early-Type Galaxies
Akihiko Tomita
Wakayama University
Abstract: Elliptical and S0 galaxies, early-type galaxies, have been considered to be gas-poor systems. We collected data from the Hubble Space Telescope archive, and analyzed the frequency and the properties of gas systems in these galaxies in detail. We found that about a half of the early-type galaxies possess the central gas system. We also showed that the nuclear activity is tightly related to the existence of the gas system.