天文データセンターの活動

中 嶋 浩 一

〈一橋大学 〒186-8601 東京都国立市中2-1〉

e-mail: nakajmki@cc.nao.ac.jp

 国立天文台,天文学データ解析計算センターの一つの活動部門としての天文データセンターの活動について,その目的,理念,内容,特色,問題点,今後の方向,などについて述べる.このセンターの第一の目的は,天文コミュニティに対して天文データを利用しやすい形で提供することであるが,しかしこれを単なるサービス業務として行うのでなく,これ自身一つの研究開発として追求することがその理念でもある.このため,活動内容は,ミラーリングなどを中心とした各種データ提供のサービスの他に,観測データアーカイブシステムの開発なども取り組まれている.そしてこれらの活動が,外部からの参加者を含めたいくつかのグループの活動によって支えられている点に本センターの大きな特色がある.しかし,研究開発活動の面から見ると,国際協力など,まだまだ不十分な点が多いことが指摘される.今後は,現在の活動の特色としてのグループ協力体制を活用し,画像などの大量データ産出の時代の要請に応えてゆくことが必要である.

1.はじめに

 日本における天文データセンターとして,国立天文台の「天文学データ解析計算センター」(以下,略称 ADAC)をあげることができる.ただしこれは,スーパーコンピュータなどを維持管理する「計算センター」としての活動をも行っているので,天文データセンターとしての活動はその一部である.

 ここでの活動の内容は,まず,天文データベースの公開サービスおよび天文データベースに関する研究開発,の2つに大別される.

 公開サービスとしては,(1) 後述の研究開発の成果である日本国内の天文観測データベース (SMOKA) の公開,のほか,(2) 世界各地で提供されている各種天文データのミラーリング,(3) 各地からCD-ROMなどで提供される天文データのオンライン公開サービス,および (4) 各種の有益な情報の提供,などがある.

 また研究開発は,さらに,「データベース天文学」という天文学の一ジャンルにおける研究活動と,サービスシステムなどに関する研究開発活動とに大別して考えることができる.前者としては,(1)実際にデータベースを利用した天文学・天体物理学研究,(2) 天文学におけるデータベースのあり方・意義・国際協力などの研究,(3) これら研究のための研究会の企画,また (4) そのためのメーリングリストの運用,など, また後者として,(5) SMOKAなどの独自のデータベースの開発,あるいは (6) 宇宙科学研究所などの外部機関との共同データベースの開発,が挙げられる.

 サービス内容のレベルとしては,専門的な天文学研究のためのデータのサービスという位置付けになっており,一般向けあるいは教育向けのデータベースとしての考慮は特に行われていない.むしろ,データベースサービスの開発・提供を行いつつ,データベース天文学のあり方についての研究活動を行うというのが,本来の目標であると考える.

 データベースサービスのサポートは,筆者のような外部からの参加者を含めた「データセンター実務会」なるグループによって行われる.また,独自のデータベースの開発,外部機関との共同開発などは,それぞれ独自ののチームを構成して行っている.研究会の企画などは,メーリングリスト参加者を組織して行われる.

 以下,国立天文台 ADAC におけるこれらの諸活動を中心に,関連する世界各地のデータセンターの状況,活動の問題点や今後の方向,などについても述べる.

 なお本稿は、文中の項目にリンク先を組み込んで、以下のURLで ADAC のウェブサーバ上に公開する予定である.

 http://dbc.nao.ac.jp/~nakajima/ADAC/geppou.html

2.外から見た

  天文データベースサービス

 現在,ADAC の天文データセンターからどのようなサービスが提供されているか,まずそのホームページから見てみよう(図1).

 ここでは,サービス内容が,その提供データベースの種類ごとに分類されて紹介されている.それぞれの内容は、一見してわかるようになっていると思うが,ここで各データについて簡単に説明する.サービスの詳細については,後に改めて説明する.

 「天文カタログ」というのは,各種天文カタログを標準化された方法でマシンリーダブル化して提供したもので,フランス,ストラスブール天文台の天文データセンター(略称 CDS)や,米国の NASA 天文データセンター(略称 NASA/ADC)を中心として開発が続けられている.これには,ホームページの記載にもあるように,雑誌論文の中に表形式で掲載されたデータをも含んでいる.

 「天文データアーカイブ」は,各種の天文観測公開データを取得・保持しているもので,記載以外にも,Sloan Digital Sky Survey (SDSS) などのデータの提供も予定されている.

 「天文画像」は,パロマチャートのように全天をサーベイ的に撮影した画像を,ディジタル化したものである.これはCD-ROMで何百枚という膨大なデータであるが,ADACではこれを,独自の検索ツールを開発して公開している.ホームページの記載にあるように,現在,パロマチャートや UKシュミットなどをディジタル化した Digitized Sky Survey(DSS,新旧2種類ある),赤外線のIRASサーベイ,電波のGreen Bankサーベイ,が利用できる.

 「天文雑誌」は,学術雑誌・文献のいわゆるアブストラクト検索サービス,および論文本体の電子版のデータベースである.当然のことながら,論文本体はそれぞれの出版元と契約を結ばない限り見ることができない.ただし,国立天文台ではその図書館が論文を購入し閲覧に供しているということで,国立天文台内部のワークステーションからであればパスワードなしでアクセスすることができる.

 これらの他,「オンライン情報」では,天文データベースに関して,国際的な共同開発研究の紹介,他機関のサービスの紹介,有用なソフトやリンク,などが提供される.

 最後の注意書きにもあるが,このようなサービスは,国立研究機関としての国立天文台が学問研究のための国家予算を使って提供しているものであり,この意味からもこれらのサービスを営利の目的で利用することはできない.

3.サービス活動の詳細,

  およびその利用

 各種のサービスのために天文データセンターが行っている活動は,主に,(1) SMOKAなど日本国内で開発されたデータベースの維持管理,(2) 外部のデータセンターで提供されるデータやサービスのミラーリング,(3) CD-ROM などの媒体で発行されるデータの取得とデータベース化作業,(4) データベースを利用するためのツールの開発および提供,および (5) これらを公開するためのサーバの維持管理,などである.以下これらについて,それを利用する観点から,具体的に説明する.

3-1. 日本国内で開発したデータベースの維持管理

 後出のように,ADACを中心とした研究開発活動の一環として開発された天文観測データベースとして,「SMOKA サイエンスアーカイブ」があげられる.これの維持管理として最も重要な活動は,ハワイ観測所などの各地で取得・公開される観測データを,遅滞なくアーカイブすることである.他方,これを利用する側から見て重要なことは,検索のためのツールの充実,ドキュメントの完備,サポート体制,などであろう.今回の特集記事の別稿(高田唯史さんの記事参照)にもあるように,この SMOKAプロジェクトではこれらのサービス内容をも含めた研究開発を行ってきており,充実した内容となっている.

3-2. データのミラーリング

 「ミラーリング」とは,他機関がインターネット上で公開している諸データを定期的かつ自動的に取得し,これを同様な方法で公開することである.これにより,公開機関の負担が軽減され,またユーザの利便性が向上すると同時に,貴重なデータの保全という意味でも大きなメリットがある.

 このような観点から,前述の「天文カタログ」については,すでにインターネットの普及以前から各地のデータセンターの分担協力体制が確立されていた.これがそのまま現状のミラーリングに引き継がれている.天文カタログについては,前述のように,フランスの CDS と米国のNASA/ADCが,それぞれ緊密な連携のもとに編集を進めているが,ADAC ではこの両者のミラーリングを毎日行っている.

 ADACでは,いろいろ検討した末,独自の方法でミラーリングを行うことにしている.それは,データの改訂が行われた場合旧データをも保存しておく,ということである.上記の各センターにおいても旧データの保存は当然行われているが,これらが非公開アーカイブであるのに対し,ADAC では外部からアクセス可能である,という点に特徴がある.

 旧データは,いろいろな意味で「比較の対象」にすることができ,たとえば新データに疑問点があった場合などに参考にすることができる.最近のようにデータ量が巨大になってくると,データに思わぬエラーが紛れ込むこともあり,実際筆者も一度ならずこのような状況に遭遇している.

 ところで,このADACのような方法を採った場合,他機関で公開後に(データに支障が発見されるなどして)再び非公開になったようなデータを,ADACにおいては見ることができることになってしまう.これは正式には不都合なことである.実際,このような状況はかなり頻繁に発生している.また過去のデータとの重複などのこともあり,最終的には手作業でこれらの問題点を調整しなければならない.

3-3. 検索ツール,

   および付随データのミラーリング

 上記のようなデータのほか,データ検索などのためのツールも,他機関のものをミラーリングして用いている.これはデータ本体の場合と異なり,定期的にミラー作業を行う必要はない.このためミラー作業は,他機関からの指示に基づいて,あるいは他機関が直接,行うようになっている.この際,付随するデータ本体についても更新されることになる.

 具体的には,(1) 前項のカタログから各天体のデータをブラウザで抽出できるVizieRサービス,(2) IUE(国際紫外線観測衛星)の観測データアーカイブ,(3) 文献情報に関する NASA Astrophysics Data System (ADS),(4) Astrophysical Journalなどのシカゴ大学出版局関係の雑誌論文本体,および (5) Astronomy & AstrophysicsなどのEDP Science社が電子化して提供している雑誌論文本体,などがこのようなサービス体制となっている.また,ハッブル宇宙望遠鏡(HST)のアーカイブサービスも,データ検索のためのデータベースに関しては,米国,宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)から更新される.(データ本体は,次項のようになっている.)

3-4. CD-ROM などの媒体によるデータの収集とその公開

 日々蓄積される観測データや,天文画像データのような膨大なデータに関しては,これらをCD-ROMのような媒体で取り寄せ,ADACにおいてデータベースに組み込んで公開する.この場合,これらのデータの検索・取得のためのツールなども ADAC において開発・提供している.

 具体的には,(1) HST アーカイブデータの本体,(2) 天文画像サービスにおいて提供されている各種画像データ,などがこれにあたる.また,前出のカタログデータに関しても,最近はUSNO-A2カタログなどのように数ギガバイトに上るものも多く,これらはテープ媒体などによって取り寄せる.

 このようなサービスにおいて最も重要なことは,これらを利用しやすくするためのツールが充実しているかどうか,ということである.幸い,天文データセンターの管理・開発チームには,これらのデータを自分自身の天文研究に利用しようとしている人が多く参加しており,ADAC独自の優れたツールが各種開発されている.全天サーベイの天文画像は,その必要な部分を任意に切り取ってブラウザに表示することができる.あるいはそれを ftp で取り寄せることもできるが,これらのためのツールはADACで独自に開発されたものである.また切り取るばかりでなく,いくつかのフィールドを合成して広視野(Wide Field)の画像を表示するユニークなツールもある.

 さらに,X線や赤外線などを含むいろいろな波長での天文画像およびカタログデータなどを,1つの画面に集中表示するツール(jMAISON)も開発されているが,これについては「研究開発」の項で改めて述べる.

3-5. サーバの維持管理について

 このようなデータサービスに関して,最も労力を必要とするのがこの「サーバの維持管理」である.作業内容は,大雑把に数え上げるだけでも,ソフトウェアのrun状態の確認,error logの点検,access log の集計および異常なaccessの検査,データのupdate やbackup,外部からの問い合わせに対する応答,外部共同機関との交渉,またこれらの作業に関するドキュメントの整備,等々がある.ADAC ではこのために,構成員の確定したチームを編成して作業にあたり,また月に1度の割合で確認・報告のための会合を持つ,などの努力を行っている.これは,「はじめに」の項でも述べた「データセンター実務会」として,1994年の開始以来,ほとんど毎月欠かさず続けられている.

4.海外の天文データセンターとの協力について

 すでに,フランスのCDS,米国のNASA/ADC,NASAのADS,などについては言及してきたが,ここで海外の天文データセンターについて簡単にまとめておく.

4-1. CDS

 CDS (Centre de Donn仔s astronomiques de Strasbourg) は,フランス,ストラスブール天文台のデータセンターで,天体データベースの草分け的な存在である.ここでは,1972年頃から,カタログを中心とする天体データをマシンリーダブルな形で収集し,さらにそれを磁気テープなどの媒体で希望者に配布する,というサービスを行ってきた.1988年頃から,東京天文台の計算センターがこれに協力して,データの収集・配布を行う日本国内のセンターとしてのサービスを始めたが,これが現在の ADAC 天文データセンターの前身である.

 またCDSでは,各天体毎にその各種観測データや研究論文の索引などを網羅したデータベース「SIMBAD」を開発し公開している.ただしこれは,組織的に論文・文献を調査してデータを蓄積するなど,大きな労力を費やして作成されるので,その利用は有料となっている.これに関しても ADACにおいて諸協力手続きを行うことによって,日本国内のサイトからであればSIMBADへのアクセスは誰でも可能ということになっている.

 CDSは,前述のカタログデータ検索・抽出の「VizieR」サービス,あるいは後述の「ALADIN」サービスなどの開発を行いつつ,近年は「Virtual Observatory」のプロジェクトにも進出しており,ヨーロッパの中心的データセンターとして確たる地位を築いている.

4-2. NASA/ADC

 NASA/ADCはNASA,GSFCの国立宇宙科学データセンター(NSSDC)の1部門として,1977年頃から,米国の天文学関連データサービスの中心となっている.ここでは,上記のSIMBADや VizieRのミラーサービスを行うほか,天体カタログに関してはCDSと協力しつつ,データの収集とその標準化の作業にも力を入れている.この意味で,NASA/ADCのカタログデータベースはCDSを補完するような内容となっており,ADACではこの両者のミラーリングを行っている.

4-3. NASA Astrophysics Data System (ADS)

 これはNASAのサポートのもと,米国,ハーバード・スミソニアン天体物理学センターにおいて運営されている,文献データベースサービスである.文献のアブストラクトは,2002年初現在で,天文学および物理学・地球物理学・機器開発まで含めておよそ250万件が網羅され,またそれのための大変多機能な検索ツールが提供されている.そしてこのサービスは,世界各地の10箇所のデータセンターでミラーリングされている.これに象徴されるように,各地の天文データセンターで,文献サービスに関する需要が急速に高まりつつある.

4-4. ESA VILSPA

 これは,前にも述べた国際紫外線観測衛星(IUE)のデータセンターで,スペインのVillafranca 衛星追跡施設に置かれている.IUE プロジェクトは,1987年の衛星打ち上げの当初から,その観測データの処理・アーカイブ・公開方法などについて,一つの研究テーマとして綿密に計画され,実行された.したがって,このデータアーカイブサービスは,この種のサービスの一つのモデルとして評価されている.このため1996年に衛星観測が終了した後も,このデータベースは貴重な紫外線観測データとして有効に利用されている.

4-5. STScI

 STScIは,NASA や NSF との協力契約のもと,米国の天文研究大学連合(AURA)によって運営され,ハッブル望遠鏡(HST)に関する一切を取り仕切っている機関である.したがって,HST の観測データは,ここに蓄積され,またここから配布されるわけであるが,他に,欧州における HST のセンター ST-ECF,カナダ天文学データセンター CADC も配布を担当している.我々の ADAC は,STScI から郵送によりデータを受け取り,それを手作業でデータベースに組み込むので,公開までにかなりの時間差が生じてしまう.ST-ECFやCADCのような関係を築くことがADACの課題であろう.

 また,STScI の中にはArchive, Catalogs and Data Devices Division (ACDSD) という部門があり,その中にCatalogs and Surveys Branch (CASB) というブランチがあって,ここが HST のためのカタログ Guide Star Catalog (GSC) や,Digitized Sky Survey (DSS) を提供している.前出の画像サービスのデータは,ここから導入されている.

 他に,ここで SDSS の Early Data Release (EDR) を見ることもできる.

4-6. 宇宙科学研究所,宇宙科学企画情報解析(PLAIN)センター

 ここでは,宇宙科学研究所の計算機およびネットワーク資源の維持管理を行いつつ,衛星観測データのアーカイブ・データベースサービス(略称 DARTS)を行っている.また,これらのデータを天文学データ(特に天体画像データ)と総合しつつ利用できるようにする目的で,サービスツール jMAISON(後述)を ADAC と共同で開発している.さらに最近では,super-SINET のプロジェクトを利用してこのサービスの相互乗り入れが行われている.

4-7. その他

 以上のような協力データセンターの他に,現状ではADACとは特に協力関係はないが,以下のようなデータセンターが活発な活動を行っている.なお,これらは ADAC ホームページの「他のサーバへのリンク」の中からたどることができる.

(1) NASA/IPAC (Infrared Processing and Analysis Center):

 米国,カルテク内にあり,NASAの赤外線研究の中心である.前述の天文画像サービスの中の IRAS画像,およびカタログサービスの中の 2MASS およびMSXカタログを提供している.また,銀河系外天体について,上記 CDSのSIMBAD サービスと同様なNED (NASA/IPAC Extragalactic Database) サービスを運用している.

(2) CADC (Canadian Astronomy Data Center):

 CADCは,カナダのDominion天体物理学観測所の中にあって,前述のようにSTScIおよび ST-ECF とともにHSTデータアーカイブの鼎の三脚となっている.また,CFHT(カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡)のデータアーカイブセンターの役割をも果たしている.またそのホームページを一見してもわかるように,天文データセンターとしてのサービスも大変充実している.上記の「鼎の三脚」のネットワークによるソフトウェアの共同開発も進んでおり,天体画像表示・解析のためのツール「skycat」などが提供されている.

(3) ESO Science Archive Facility:

 これは前出のST-ECFとESO (European Southern Observatory) との共同で運営されている天文データセンターで,ドイツの ESO 本部にある.これはヨーロッパ共同の天文プロジェクトのアーカイブセンターとして活動するほか,前出の CADC や CDS とも協力して, VizieR などの各種ツールの開発を精力的に行ってきた.

(4) ロシア,アジアの天文データセンター:

 主なものとして,ロシア,天文学研究所 (INASAN),中国,北京天文台(BAO),インド,天文学・天体物理学大学共同センター(IUCAA,在 Pune)がある.これらは現在のところ,各地で CDS やADSなどのミラーリングを中心としたサービスを行っているが,いずれもCDSなどのデータ提供のセンターとの直接共同作業である.将来は,これらのセンターとADACとの共同作業や共同研究が追求されるべきではないだろうか.

5.研究開発

 ADAC天文学データセンターにおける研究開発について,「はじめに」の項で述べたような分類に従ってまとめる.

5-1. データベースを利用した天文学・天体物理学研究

 これについては,具体例が,本特集の別記事(富田晃彦さんの記事参照)で紹介される.ある意味で,このような研究が天文データセンター運用の本来の目的である,と考えられる.しかし,このような研究活動は,各個人研究者の研究テーマに依存するため,ADACなどが組織として特定のテーマの研究に取り組む,ということはあまり考えられない.実際,前述の「データセンター実務会」などにおいても,各自の研究の状況を簡単に報告しあう程度というのが現状である.

 この点に関するADACの大きな貢献として,このようなテーマについての研究会の企画,がある.これについては,ADAC がその事務局を担当している「天文情報処理研究会」なる集まりが,(ソフト開発などの)他のテーマをも含めてすでに50回近く開催されている.またその都度研究会集録も発行されており,実質的な成果を上げていると言えよう.

5-2. 天文学におけるデータベースのあり方・意義・国際協力などの研究

 前項のような天文学研究の他に,データベースやデータアーカイブのあり方等,データベース自身についての研究,というのも考えられる.現状では,このようなテーマについては,システム開発などの研究(次項)の際に具体的に検討され,開発の成果に反映されるというのが中心であり,このテーマの独立した研究論文というのは,内外ともあまり見受けられない.しかし,国際天文学連合(略称 IAU)では,その第5委員会でこのテーマ本体についていろいろ論じられている.このIAUへの対応は,現在,ADAC 関係者が個人の資格で窓口となっている,という程度である.このような場での国際協力などをも考慮しつつこの研究テーマを独立させてゆくことが,今後の ADAC の一つの課題ではないだろうか.

5-3. サービスやアーカイブのシステムのための研究開発活動

(1) SMOKA サイエンスアーカイブ開発

 ADACを中心としたこのような研究開発活動で代表的なものが,このSMOKAサイエンスアーカイブの開発である.これは日本国内の,主に可視光天文観測データをアーカイブ(すなわちデータを収集,データベース化し,検索可能にして,公開すること)するものであり,当初は MOKA(すなわち三鷹,岡山,木曽を結ぶアーカイブ)であったが,SMOKAで「すばる」のデータアーカイブを加え,その重要性が高まりつつある.これについては,前述のように本特集の別記事で紹介されるので,詳細は省略する.

(2) jMAISONの開発,ほか

 jMAISONは,特定の天域について,各種画像データやカタログデータを横断的に検索して結果を表示するサービスツールで,前述のようにISASの宇宙科学企画情報解析センター(PLAINセンター)との共同で開発されたものである.特に,ISAS の衛星観測データのアーカイブを高速ネットワークで結合することによって,ユニークなデータ比較が行えることが特徴である.

 同様なサービスが,CDS から ALADIN という名称のサービスとして提供されており,近年,天文データセンターにおいて画像データのアーカイブサービスの需要が高まりつつあることを,象徴的に示している.ALADINは,CDSが10年近くかけて開発を続けてきたもので,CDSではこれを次世代における天文データサービスの主力と位置付けて開発に力を入れている.本特集の別記事(VOについての記事参照)にあるような "Virtual Observatory" (VO) は,この延長上にあるといえるのではないだろうか.

 ADACでは,jMAISONの他に,上記 3-4. でも触れた広範囲の天域の画像を統合表示するツールなども開発提供しており,これも今後のデータサービスの方向を先取りしたものとなっている.

 実は天文画像データに関しては,その処理ソフトの代表格であるIRAFについて,早くから「天文情報処理研究会」が研究活動を行ってきており,ADACはそのメーリングリスト jiraf-net の運用の中心となっている.また「IRAF cookbook」などの出版活動も行っている.特に統計を取ったわけではないが,筆者の印象ではこれはかなり広範囲に利用されているように見受けられる.

 また画像データ等に関して,その標準形式であるFITSについての活動も重要である.現在では,これに関する国際的な取り組みに対して「日本 FITS 委員会」が構成され,対応している.ADAC では,「FITSのためのハンドブック」の出版協力などを通じて,これに貢献している.

 天文画像データを教育目的で利用しようと考える「PAO-FITS」という活動もあり,ADAC はメーリングリストの運営などでこれに協力している.

6.おわりに

 以上,ADACにおける天文データセンターの活動内容についてやや詳しく見てきたが,最後にこの活動状況について少しふれておきたい.

 「はじめに」にも述べたように,これらの活動は,ADAC の(数少ない)専任スタッフを核とし,周辺の非常勤研究者や外部からの参加者を組織してグループ・チームを結成し,実行されている.前述の「データセンター実務会」もその一つであるが,他にも SMOKA や jMAISON の開発グループ,天文情報処理研究会グループ,などが天文データセンターの広汎な活動を支えている.また逆に国立天文台 ADAC は,計算機資源やネットワークなどのハイレベルのインフラストラクチャーを提供することによって,これらの主体的な活動をサポートする.

 これらの活動への外部からの参加者は,コンピュータやデータ処理について関心・興味を持つ人々がボランティア的に参加しているものも多い.他方,前述のように,天文データセンターが今後取り組まねばならないテーマはまだまだ大量に残されているが,天文学分野全体の拡大の加速する現状では,専従の人的資源はますます逼迫しつつある.したがって,今後のデータセンター活動の成否は,これらの外部参加者の協力をどのように組織化し拡大してゆくか,という点にかかっていると考えられる.

 これについて,ここでは詳しく検討する余裕がないが,1つのポイントを上げるとすれば,このような実務に携わることによってどのようなメリットが得られるか,ということであろう.実際筆者は,これらの実務を通じて,データの所在や利用方法,さらに情報処理技術の実際についていろいろ勉強になり,得るところ多大であった,と考えている.

 また,現在の天文学の新観測装置開発のラッシュの中にあっては,新たな観測による新発見が天文学研究の中心になるのはやむを得ないと思うが,これによって蓄積される膨大なデータをさらに活用する方向にも,もっと目が向けられなければならないのではないだろうか.

 いずれにしても,天文データセンターのこれらの活動やそこで扱われるサービスなどは,広く天文学コミュニティに開かれているものであり,さらに多くの人々の利用・参加・寄与を,当事者として大いに歓迎したい.データや資料のメリットのみならず,研究会やメーリングリスト,頻繁な呑み会など,コミュニティとしての多大のメリットもあり,生き甲斐の発見にもつながるのではないかと思う.

 本稿を作成するにあたり,天文データセンタースタッフ,および実務会の皆様にいろいろお世話になりました.ここに深く感謝いたします.

図1 天文データセンター,トップページ.

図2 VizieRのトップページで使用されているADACのロゴマーク.

Role of the Astronomical Data Center

Koichi Nakajima

Faculty of Social Sciences, Hitotsubashi University

Abstract: As a part of the Astronomical Data Analysis Center in National Astronomical Observatoy of Japan, the Astronomical Data Center has been playing an important role in Japanese astronomers community, not only providing various useful database services but also studying and developing observational data archiving systems or data analysis tools. Our various activities in both parts of the role are reported, together with its distinctive working style, and with its future possibilities.