研究成果 2013年10月10日

太ったブラックホールは都会育ち: 仮想天文台による"観測"成果

多くの銀河の中心には、太陽の百万倍を超える質量の巨大ブラック ホールが存在します。そして巨大ブラックホールの成長と銀河その ものの成長には密接な関連があると考えられています。一部の巨大 ブラックホールは、周囲のガスを引き寄せて莫大なエネルギーを放 出し、活動銀河核として観測されています。

巨大ブラックホールがどのように「太って」いくのかはよくわかっ ていません。ひとつの可能性として、巨大ブラックホールをもつ銀 河と周囲の銀河との相互作用によって、ブラックホールの成長がも たらされたという考えもあります。もしこの仮説が正しければ、巨 大ブラックホールを持つ銀河とその銀河の環境には何らかの関係が あるはずです。

これまでの研究では、電波で明るい活動銀河核など一部の種族が銀 河の密集した環境にあることは知られていましたが、中心のブラッ クホール質量との関連については明確な結果が得られていませんで した。そこで、研究チームは、中心に巨大ブラックホールがある活 動銀河核の周囲の銀河の分布を調べました。

図1:銀河の分布と、活動銀河核を持つ銀河、そ してその中心にある活動銀河核の想像図。活動銀河核は銀河中心に ある巨大ブラックホールに周囲のガスが落ち込むことにより明るく 輝く天体です。今回の研究では、銀河中心の巨大ブラックホールの 質量が、周囲の銀河の分布と関連していることが明らかになりまし た。

巨大ブラックホールの平均像を知るためには、多数の巨大ブラック ホールと、巨大ブラックホールを中心にもつ銀河の環境を調べる必要 があります。そこで、今回の研究では、多数の巨大ブラックホールの 「観測」を行うために、「仮想天文台」を活用しました。

仮想天文台とは、世界中にある様々な天文データベースをインターネッ トによって連携させ統合的に利用できるようにしたシステムです。国立 天文台データベース推進室では、データベース天文学の強力な研究手段 として日本独自の仮想天文台ポータルサイト等を開発してきました。今 回の研究ではまず、SDSS(注1)の分光観測によってブラックホール質 量が測定されている1万個にものぼる活動銀河核のデータを収集し、さ らにそれらの周囲にあるの銀河のデータをUKIDSS(注2)の銀河カタロ グから取得しました。仮想天文台を用いることで、UKIDSSが観測した約 7千万もの天体の中から、活動銀河核周囲の必要な銀河のデータだけを 自動的に効率よく抜き出して解析を行うことが出来ました。また、新た な解析手法 (注3) を考案し、周辺銀河の数密度分布を高い精度 で 求めることに成功しました。

図2:活動銀河核の周囲の銀河の分布を、ブラック ホールの質量別に集計した結果(最も重いグループと、最も軽いグルー プの結果だけを載せた)。活動銀河核の近くほど銀河の数密度が高い傾 向が見えると共に、重いブラックホールほど銀河の密集度が高いことが 分かります。

解析の結果、より大質量の巨大ブラックホールは、銀河がより密集した環 境に存在する傾向がみられました。このことは巨大ブラックホールの質量 が、サイズスケールでは1億倍という大きなスケールと密接な関連を持つ という驚くべき結果です。

なぜ銀河が密集したところでブラックホールが「太る」のでしょうか? 銀河の密集した領域では、銀河同士の合体が頻繁におこります。銀河の衝 突・合体によって、銀河内のガスの運動が乱れ、大量のガスが巨大ブラッ クホールに落ち込むことで、ブラックホールが成長した可能性が考えられ ます。また、合体した双方の銀河にブラックホールがあった場合、ブラッ クホール同士が合体して、より巨大なブラックホールを作ったのかもしれ ません。

一方で、1億太陽質量以下の巨大ブラックホールに関しては、ブラックホー ル質量と銀河分布の相関がなくなるという、研究チームも予期していな かった性質も見つかりました。これは、太陽質量の1億倍程度を境として ブラックホールの成長過程が変化している可能性を示唆します。

図3:ブラックホール質量による銀河の密集度の違い (縦軸は銀河密度が高くなっている領域のサイズを表し、大きいほど密集 度が高い)。大質量側では、より重いブラックホールがより銀河の密集し た環境にあります。一方、低質量側では相関が見られません。

「今回の研究で、これだけ大量のデータを非常に短時間で処理できる仮想 天文台の持つパワーをあらためて実感しました。」と小宮氏は語ります。 仮想天文台を用いる研究手法は、すばる望遠鏡の新たな広視野カメラなど により取得されるさらに大量の観測データを用いた研究にも応用できます。 研究チームのメンバーの一人、白崎氏は「特に、比較的小さな巨大ブラッ クホールは、まだ観測も少なく未知の面が多いです。巨大ブラックホール は最初どのように生まれたのか、という謎ともからんで、探るべきことは たくさんあります。」と今後の研究の展望を語っています。

(注1, SDSS) Sloan Digital Sky Survey。光学望遠鏡で全天の約1/4を観 測し、宇宙の銀河地図を作成しました。

(注2, UKIDSS) UKIRT Infrared Deep Sky Survey。赤外線望遠鏡で全天の 約1/10の範囲を観測しました。 SDSSと比べて遠方の銀河をより多く観測 できています。

(注3) 本研究で用いた新たな解析手法では、まず各観測領域で、ある明る さの銀河が、どのくらいの確率で検出されているか(検出効率)を調べま す。この検出効率を使って、暗くて検出できなかった銀河の個数を補正し ます。このようにして、暗い銀河の個数も含めた各観測領域で平均的な銀 河密度の平均的な領域からの超過度を、暗い銀河の個数も含めてを見積も ることができます。一方、通常の研究手法では、距離の測られている一定 以上明るい銀河のみを調べて、銀河の密集度を見積もります。そのため暗 い銀河のデータは使われないことになります。

論文

今回の研究成果は、Komiya et al. "A Cross-correlation Analysis of Active Galactic Nuclei and Galaxies Using Virtual Observatory: Dependence on Virial Mass of Supermassive Black Hole" として、アスト ロフィジカル・ジャーナル誌(vol.775, article id.43)に掲載されました。

(ApJ web page)

研究メンバー

  • 小宮 悠 (国立天文台 天文データセンター 研究員)
  • 白崎 裕治 (国立天文台 天文データセンター 助教)
  • 大石 雅寿 (国立天文台 天文データセンター 准教授)
  • 水本 好彦 (国立天文台 天文データセンター 教授)